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2025.09.18

「フールズ・パラダイス」より高田茜さん特別インタビュー

インタビュー

ロイヤル・バレエ&オペラシネマシーズンのラストを飾る『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』。振付はすべて、世界中でヒットした『不思議の国のアリス』や、トニー賞を受賞し劇団四季でも上演されたミュージカル『パリのアメリカ人』で知られる、現代最高の振付家クリストファー・ウィールドン。『フールズ・パラダイス』『トゥー・オブ・アス(ふたり)』『Us(僕たち)』『パリのアメリカ人』 の4作で構成され、バレエ団のスターダンサーたちがシーズンのフィナーレを飾る。
1作目の『フールズ・パラダイス』は、ウィールドンが作曲家ジョビー・タルボットとの長きにわたるコラボレーションの第一歩となった作品。ファッションデザイナーのナルシソ・ロドリゲスが手掛けた肌色のミニマルな衣裳に身を包んだ9人のダンサーたちが、刻々と変化していく美しいフォルムを作り上げていく。高田茜とウィリアム・ブレイスウェルをはじめとする3組のペアが生み出すその神々しいまでの動きに観客は目を奪われる。 2015年にプリンシパルとなった高田茜が10年目の心境とともに作品を語った。


(c) Andrej Uspenski

 

―クリストファー・ウィールドンの作品は繊細さとドラマ性が特徴的ですが、踊ってみて特に印象的だったのはどんな点でしょうか?
高田茜:まず音楽が素晴らしく、物語がない分、身体のラインやどういうふうに音楽をフレージングするか、何か物語性があるように踊るというのが難くもあり楽しかったです。

―『フールズ・パラダイス』を表現するうえで、身体的にも精神的にも難しいと感じる部分はありますか?
高田茜:アクロバティックなリフトがあり、最初は落下してしまうこともありました。床にパートナーが寝てこういうふうな(上に持ち上げる動作)感じでリフトするのを練習して、それから徐々にできるようになりました。

―もはや人類を越えて神々を見ているかのようでしたが、心や頭の中はどのような状態だったのでしょうか?
高田茜:裸同然で踊っているような感覚で、正直恥ずかしかったです。薄いオーガンジーを着ていて、途中で脱ぐのがいやでした(笑)。

―共演者との呼吸や関係性が重要になる作品だと思いますが、リハーサルで心がけていることはありますか?
高田茜:コミュニケーションはやはり大事だと思います。やっぱり口で言わないと。ここのタイミングはどうするとか、もう少し下に支えてほしいなとか、ここはプリエあまりしないでほしいとか。それを言わずに感じるだけじゃ多分ちょっと難しいかなと思うので。みんなも本当にオープンに聞いてくれるダンサーばかりなので、チームワークはとても良かったと思います。ラインをどう見せるか、どうすればうまくいくかなど、コーチを交えて会話ができるので。

―ご自身のこれまでのレパートリーと比べて、『フールズ・パラダイス』ならではの魅力はどんな点にあると感じますか?
高田茜:静止する動きと流れるような動きがすごく自然に音楽とともに活かされている作品だと思います。フォーメーションやダンサーが作る動きや形が、動く彫刻を見る、動く絵を見るような作品です。

―バレエ作品としてはモダンな要素を含んでいると思いますが、古典作品と取り組むときとの違いをどのように意識していますか?
高田茜:古典はごまかしがきかず、決められた型をしっかり押さえておかなきゃいけない部分があります。ネオクラシックはごまかしているわけではないんですけど、感情やニュアンスを少し入れやすく、わざと間を取るなどの表現ができるかなと思います。

―休日の過ごし方について教えてください。
高田茜:この間ノルウェーでの結婚式に行ったり、友達に赤ちゃんが生まれたのでパリまで会いに行ったりしていました。ロンドンでは好きな音楽を聴いたり、好きな番組を見たり、友達とお茶したりと普通の生活です。あとはもう本当にゴロゴロしていますね。本当にダメ人間な生活をしています(笑)。

―Mrs. GREEN APPLEがお好きと聞きました
高田茜:はい、大好きです。イギリスのバーミンガムのダンサーから聞いて好きになりました。

―2017年にもインタビューさせていただきましたが、その時からの気持ちの変化はありますか?
高田茜:当時はたぶん本当に必死でした。「自分がプリンシパルでいいんだろうか」と葛藤し、誰もプレッシャーをかけていないのに自分で苦しんでいました。もう失敗できないとか、ここまでの踊りを毎回見せなきゃいけないんだって思って。すごく苦しい日々だったと思い返すこともあります。 今は自分を受け入れ、楽しむことができるようになりました。心の余裕がないとやっぱり自分の気持ちにも気づけないし、舞台上で本当に楽しめないですから。プリンシパルになって10年目になるんですけど、ベストを見せたい気持ちは変わりませんが、向かい方が変わりました。自分も楽しまないとといけないと思えるようになりましたね。

ー最後に、『バレエ・トゥ・ブロードウェイ』、そして『フールズ・パラダイス』をご覧になるお客様に向けてメッセージをお願いします。
高田茜:このミックスビルはウィールドンのエンターテインメント性と詩的な内面性が両方見える作品です。ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいです。